バイクの姿勢制御について、制御理論的に考えてみる②

バイク
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前回記事ではモデル化の概要だけ書いたので、ちょっとずつ詳細考えていこうと思います。

タイヤの摩擦力再考

タイヤの摩擦力特性に関しては、過去記事でも一度触れていますが、今回バイクのモデルを考えるにあたって自動車とはちょっと前提が変わってくるので、もう一度考えてみることにします。

まず、おさらいとして、車両の挙動に与えるタイヤの特性は、主に

  • 横力(文字通り、横方向に働く摩擦力)
  • セルフアライニングトルク(タイヤがもとに戻ろうとするトルク)

の2つになります。

(厳密には縦力もありますが、駆動力や制動力との兼ね合いで調整できると思うのでいったん無視します)

自動車の場合、タイヤが垂直方向に対して傾く量は小さい(すなわち、キャンバ角が小さい)ため、キャンバ角の影響は無視して(あるいは固定化して)横力特性を定式化していました。

しかしバイクの場合、状態としてロール角を考えていることからもわかるように、車体の傾きが大きく変化することもあるため、摩擦力特性に与える影響も考慮する必要があります。

横力特性

おさらいとして、まず、タイヤ単体に対して下図のように考えます。

すなわち、タイヤの前後方向を\(x\)軸方向、タイヤの面に垂直な方向を\(y\)軸方向とし、実際には速度\(V\)で図のように進んでいるとします。

この時、進行方向と前後方向のなす角をタイヤの横滑り角\(\beta_i\)といい、この横滑り角に応じてタイヤの横方向に横力\(F_y\)が働く、という特性になっています。

ここで、いま車体が角度\(\phi\)だけ傾いているとすると、当然タイヤも同じ角度だけ傾くことになります。この時、傾き\(\phi\)に応じてタイヤにはキャンバスラストという力が働きます。

難しく言ってますが、要はハンドル切るのと似たような力がかかるってことです。

なので、今まで、横力\(F_y\)を横滑り角\(\beta_i\)の関数\(F_y(\beta_i)\)として考えていたのが、ロールを考慮することで、2変数関数\(F_y(\beta_i,\phi)\)として考える必要が出てきました。

Magic Formula

ちなみに、そんな複雑な特性、どうやって定式化するんや…という悩みに対する実用的な方法として、Magic formulaというタイヤのモデルがあります。

Just a moment...

これは1987年に初めて提唱された(1989年、1992年にアップグレードされている模様) タイヤ特性の近似式で、キャンバ角(ここでいうロール角)、横滑り角、輪荷重、スリップ率(前後方向の滑り比率)を変数とし、横力、縦力、セルフアライニングトルクを数式で近似できるようになっています。

ただし、実測値から決めるパラメータがいくつかあるので、実際に使うには同定試験が必要になります。

実際、このモデルで横力を表現すると

$$F_y(\beta_i,\phi)=D\sin[C\arctan\{B\beta_i-E(B\beta_i-\arctan(B\beta_i))\}]+S_{\nu}$$

ただし

\(C=a_0\),

\(D=(a_1F_z+a_2)F_z\),

\(B=\frac{a_3\sin\left(2\arctan\left(\frac{F_z}{a_4}\right)\right)(1-a_5|\phi|)}{CD}\),

\(E=a_6 F_z+a_7\),

\(S_{\nu} = a_8F_z\phi+a_9F_z+a_{10}\),

となります。ここで\(F_z\)は輪荷重を表します。うーん複雑。

ちなみにこれをプロットしてみると、下記のような概形になります。

(パラメータの設定は参考図書より引用しました。)

セルフアライニングトルク

セルフアライニングトルクは、横滑り角を生じているタイヤの変形がもとに戻ろうとして発生するトルクで、下図のように働きます。

ちなみにこれもMagic formulaの枠組みで表現でき、その場合は

\(C=c_0\),

\(D=c_1F_z^2+c_2F_z\),

\(B=\frac{(c_3F_z^2+c_4F_z)(1-c_6|\phi|)\exp(-c_5F_z)}{CD}\),

\(E=(c_7 F_z^2+c_8F_z+c_9)(1-C_{10}|\phi|)\),

\(S_{\nu} = (c_{11}F_z^2+c_{12}F_z)\phi+c_{13}F_z+c_{14}\),

となります。

まとめ

今回は、ロール角を考慮した場合にタイヤの特性がどう影響を受けるかということと、それを表すmagic formulaというモデルについて書きました。

もうちょっと数値例とかグラフ化すると把握しやすいかなと思うのでその辺図示できるようになったら更新するのと、次回はロール方向の運動方程式について書いていこうと思います。

参考図書

今回書いたMagicformulaについては、本文中に載せた論文を読んでもいいですが、下記の本を参考にするとわかりやすいかもしれません。

実際に同定パラメータの数値例が載っていたり、パラメータが変わると\(F_y\)の形状がどう変化するかなんかも図示してあるので、より理解しやすいかと思います。

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