自動車業界に入って6年目になりました。(とはいっても、この3ヶ月は育休でしたが)
このブログで何度か記事にしていますが、ここ最近の私の関心はドラビリ評価にあります。
(ドラビリって何?という方はこちらを参照)
ドラビリ評価のためには、自動車がどういう挙動をするのか、どういう特性があるのかを知っておくことが大事です。そしてその為に、自動車の数理モデルについて理解しておくと役立ちます。要は自動車の動きを数式などで表現するってことですね。
自動車の数理モデルを考えるためには、いろんな部品の動きをモデル化する必要があるんですが、まず今回は、タイヤについてお勉強します。
タイヤの力学
座標系の設定
タイヤに働く力を考えるため、まずは座標軸を定義します。タイヤは立体なのでX、Y、Zの3方向考えます。タイヤに働く力は、これら3方向に働く力の合力として解釈されます。
用語の定義
キャンバ角、スリップ角
上で座標軸を設定しましたが、走行中のタイヤは下図のように鉛直面に対して傾いていたり、進行方向とは違う向きであったりします。
それらの角度はそれぞれキャンバ角、スリップ角と呼ばれ、タイヤにはたらく力やトルクに影響します。
スリップ比
タイヤがどれだけ滑っているか(空転しているか)を表す指標として、スリップ比というものがあります。定義としては、タイヤの回転角速度 ω、進行速度 V、転がり半径 r を用いて下記のようになります。
(駆動時, S>0)
(制動時、S<0)
つまり、
(単位時間あたりのタイヤ回転距離 – 単位時間あたりタイヤ移動距離)/(単位時間あたりタイヤ回転距離)
…文字にするとなんだかややこしいですが、図示するとこんな感じ。
回転した分進んでいればスリップ比も0ですし、完全に空転しているときはスリップ比1になる、と思うとわかりやすいですね。
タイヤにはたらく力とトルク
走行中のタイヤには、接地面を通して下記のような力が働きます。
タイヤの進行方向には駆動力または制動力、横方向に横力(横方向のグリップ力)、鉛直方向に輪荷重が働きます。
特に横力は車両の挙動を考える上で重要な要素になり、スリップ角、キャンバ角、輪荷重に依存して特性が決まります。ざっくり書くと下記のような特性です。
スリップ角の小さい領域においては線形の特性を持ちますが、一定のスリップ角を超えてしまうと横力は限界に達し、逆にグリップを失ってしまいます。これがいわゆる「横滑り」している状態であり、ドリフト走行やスピンに繋がります。また、線形になっている部分のことをコーナリングフォースとかコーナリングパワーと呼びます。線形領域の傾きやピークの位置など、特性の細かな形状はキャンバ角や輪荷重によって決まります。
また、横力と同じように、スリップ角、キャンバ角、輪荷重に応じてZ軸周りにはセルフアライニングトルクというものが生じます。これはタイヤが元の向きに戻ろうとして発生するものです。ハンドルを切って曲がろうとするとハンドルから抵抗力みたいなものを感じると思いますが、それがセルフアライニングトルクです。
特性としては下記のようになっており、ある一定のスリップ角までは線形、それ以上の領域では減衰するという特徴があります。
数理モデルとしての表現
車両の挙動を数式で表現するには、上で述べたようなタイヤの特性を考慮しなければなりません。特に横力とセルフアライニングトルクは車両の挙動に寄与する割合が大きいため重要になってきます。
しかしながら、これらの特性は非線形性が強いため、すべての領域を数式として表現するためには何らかの近似式を用いて表現する必要があります。表現方法についてはいくつか手法が提案されていますが、おそれく最も有名なのは、オランダ・デルフト工科大学の教授によって提案されたMagic Formulaというモデルでしょう。
詳しくは割愛しますが、sin関数やarctan関数を用いて横力やセルフアライニングトルクの特性を近似するというモデルになっています。実用化のためには、横力やセルフアライニングトルクを実際に測定し、その特性にフィッティングするようにパラメータを決める必要があります。
まぁ、測定を行うとなるとそれなりに設備がいるので流石に個人ではできなさそうですね。
ちなみに、車両挙動を考える際はしばしばスリップ角が小さい領域を考えるので、線形の部分の特性だけ考えることが多いです。タイヤがグリップしている領域ではこれで十分であり、数式としての表現もかなり簡単になりますが、ドリフトとか横滑りしている領域まで考慮しようと思うと非線形部分まで考慮する必要があり、モデルとしては複雑になります。
まとめ
自動車高額の勉強として、タイヤに働く力やトルクについてまとめました。
色々書きましたが、重要なのは
- 横力(コーナリングフォース)とセルフアライニングトルクは車両挙動への影響が大きい
- Magic Formula などの数理モデルによって特性は表現される
というところです。
次回はいよいよ車両全体のモデル化について書いていこうと思います。(超時間かかりそうだけど。。。)
関連書籍
以下は、私がこの勉強のために読んだ本です。
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