バイクの姿勢制御について、制御理論的に考えてみる①

バイク
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バイク需要の推移と課題

自動車が普及してきた現代においては、バイクは移動の足としてというよりも趣味の乗り物としての側面が強くなっています。

ところが、コロナ禍の影響で、近頃は移動手段としての価値が見直されつつあるようです。この辺の話は過去記事にも書いてます。

いま、バイクをおすすめする理由
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一般に、バイクに乗るメリットとして、

  • 維持費が自動車に比べ安い
  • 小回りが効き、機動力に長ける
  • 場所を取らないため保管しやすい

などの点がが挙げられる反面、デメリットとして、

  • 自動車と比べ、事故時の被害が大きい
  • 立ちゴケなど転倒によるリスクがある

という点が挙げられます。

中でも転倒のリスクはバイク特有のものであり、濡れた路面やマンホールの上、路上の砂などによりタイヤが滑り転倒してしまうという事例も少なくありません。

したがって、車両の姿勢を制御するということに関していえば、バイクは自動車よりもシビアな状況にあるといえるでしょう

姿勢制御のための技術

以上を踏まえて個人的に思うのが、転倒防止してくれるような自動制御技術があったら便利なのにな、ということ。

そもそも、色々な技術が開発されてきているこのご時世、バイクの姿勢制御に関する技術ってないのでしょうか?

車種にもよりますが、今時の自動車であれば横滑り防止装置が付いていて、滑った時に各車輪のブレーキを適切な強さでかけることでグリップ力を確保し姿勢を制御してくれるようになっています。

一方で、バイクにそういった装置が付いている例は見かけません。おそらく、それはバイクの運動特性が関係しています。

バイクの場合、車体の傾き(ロール角)のとりうる範囲が自動車よりもはるかに広く、それがグリップ力に大きく寄与してくるため、前後ブレーキをかけるだけでは完全に姿勢を制御しきれません。

加えて、姿勢制御する際に車はロール角を安定化する必要がない(転倒の心配がない)のに対し、バイクはロール角も含めて安定化しないといけないので、制御しなければいけないものが多く、設計が難しいのだと思われます。

とはいえ、近年では面白い技術も試みられているようで、例えば下記のような装置なんかも開発されています。(実用化されているかどうかはわかりませんが)

バイクの運動を数理モデルで表してみる

バイクの姿勢制御を考えるのは難しいとしても、具体的にどんな操作をしたら滑ってしまうのかとか、こういう操作をするとこういう挙動になるんだよ、とか、そういうのって定式化できないんでしょうか?

自動車の挙動については学生時代に調べたり論文にも使ったりしてましたが、バイクに関してはまだきちんとやったことがなかったので、いい機会だからちょっと考えてみようと思います。

ただ、おそらくかなーり計算がめんどくさいことになりそうなので、空いた時間でちょっとずつ書いていこうと思います…

バイクの数理モデル概要

過去記事にもちょこっと書いたんですが、ロール角以外の特性は、下記のようなモデルで表現できると思います。

(下図は自動車の数理モデルからトレッドの影響を無視した等価二輪モデルというものを表した図ですが、バイクにはトレッドが無いので、同じモデルで考えられると思います)

ここで、変数として

  • 車速\(V\)
  • 車両の横滑り角\(\beta\)
  • ヨー角速度\(r\)
  • 実舵角\(\delta\)
  • 駆動力\(D\)

をとります。

制御理論的にいえば、舵角\(\delta\)と駆動力\(D\)は入力変数、それ以外は状態変数となるかと思います。

さらに、バイクの場合はロール角を考慮する必要があるので、垂直方向の動きを下記のようにモデル化します。

ここで、さらに変数として

  • ロール角\(\phi\)

をとります。

以上より、モデルの定式化にあたって必要な物理特性は

  • タイヤの摩擦力(横滑り角の関数)
  • 並進の運動方程式(前後方向の力の関係)
  • 回転の運動方程式(ヨー方向)
  • 回転の運動方程式(ロール方向)

になると思われます。自動車の時はロールの影響は無視していましたが、バイクの場合は摩擦力特性に効いてくると思うので、全体的に立式し直しの予感…。

具体的な計算は次回やります。ここまで考えただけで疲れた…

参考図書

さて、上記のモデリングの考え方として、参考にしている文献を紹介しておきます。

マニアックな内容なので、技術者か学生くらいしか読まないかもしれませんが。笑

自動車の運動と制御

タイヤの摩擦力特性、車両の特性、ステアリング特性、ドライバ操作の特性など、いろんな観点から自動車の挙動を捉え、モデル化することでさまざまな解析を行っています。
よく聞くオーバーステア、アンダーステアみたいな話なんかも書かれているので、数式に抵抗がなければ1度読んでみるとおもしろいと思います。

自動車の限界コーナリングと制御

こっちは、レーシングカーに搭載されている技術にも触れながら、如何にコーナリングを極めるかというところに焦点を当てて書いています。
はじめに紹介した本に書いてあるような車両のモデルとタイヤの摩擦力特性の話をしたあと、こういう特性があるからコーナリングではこうしなければならない、みたいな内容が書いてあります。
実例がイメージしやすいという意味では、比較的読みやすい本なのではないでしょうか。

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