ATの構造と制御についてまとめてみた

クルマ
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学生の頃、ATってどういう構造してるのかな?数理モデルに起こして論文の数値例に使えたりしないかな?ぐらいの軽い気持ちで、勉強がてら下記の本を買って読んでみました。

結論から言うと、全然わからんかった。笑

ある程度経験を積んだ今だからこそ読めば理解できますが、初見でこれは相当難しい。。

ということで、初めての人でもある程度理解できるように、知識の整理も兼ねてこの本の内容をなるべく簡単にまとめておこうと思います。ゴールデンまなびウィークということで。

自動変速機の概要

変速機とは何か?どんな役割があるか?

おおよその内容は下記の記事にも書いています。

トランスミッションってどんな部品?役割から構造までざっくり解説
現在、私は主に自動車のトランスミッション(変速機)に関する仕事をしています。 で、色んな人からよく聞かれるのが 「トランスミッションってそもそも何?」 という質問。確かに、オートマとかミッションとか単語は聞くけど、イマイチどんな役割の部品な...

ここでもざっくり触れておくと、変速機を一言で言えば

エンジン回転とタイヤの回転の関係を変化させる(変速させる)機械

です。変速させることで、エンジン回転を一定の範囲に保ったまま車速を上げることができます

ただ、変速以外にも様々な機能を持っており、主なものとして

  • 変速させ、回転を低く保つことで静かに走行する
  • 前進・後進を切り替えられる(Rレンジ)
  • 駐車時にクルマが動かないようにする(Pレンジ)
  • エンジン始動時にクルマが動かないようにする(Nレンジ)
  • トルクを増幅して発進する

という機能があります。また、上の記事では書きませんでしたが

  • エンジンの振動が車内に伝わるのを低減させる
  • カーブ走行時にタイヤをスムーズに回転させる

という機能もあります。

駆動方式とトランスミッションの配置

クルマの駆動方式によって、トランスミッションのレイアウトも異なります。

FFであればエンジンの横に、FRであればトランスミッションの後ろに配置され、形状もそれぞれ異なります。FFのほうがコンパクトな形状になるので、車内のスペースを広く取れるというメリットがあり、コンパクトなクルマによく採用されます。一方でFRは車内のフロア中央のスペースを取りますが、車両の運動性がいいため高級車やスポーツカーに採用されやすいです。

ATの変速制御

さて、ATは文字通り自動で変速を行う装置なわけですが、

  • どうやって変速する・しないの判断をするのか?
  • どうやって変速しているのか?

というところについて、簡単に書いていこうと思います。

どうやって変速の判断をするのか

変速線を跨いだときに変速判断をする

マニュアルモードのときはドライバーの操作をきっかけとして変速制御を始めますが、それ以外は基本的には変速線というものに従って変速判断を実施します。

変速線はアップ線(下図実線)、ダウン線(下図点線)に分けられ、それぞれの線を跨ぐときにアップシフト・ダウンシフトの判断を行います。

図にも書いてますが、アップ線を跨ぐ(アップシフト判断する)のは、

  • アクセルを踏んで車速が上がって行ったとき(左→右)
  • 加速してからアクセルを一気に抜いたとき(上→下)

ダウン線を跨ぐ(ダウンシフトを判断する)のは

  • アクセルを一気に踏んだとき(下→上)
  • 減速して車速が下がったとき(右→左)

ということになります。

実際に運転しているときのことを想像してもらうと、変速のイメージがつきやすいかと思います。

変速線のヒステリシス

また、アップ線とダウン線は一般に重ならないように(アップ線のほうが右側に)設定されています。これは、同一の線でアップとダウンを判断してしまうと、短時間のうちに変速線を何度も跨いでしまいドラビリが悪化する恐れがあります。

たとえば車速が60km/hのところにアップ線とダウン線があったとし、ドライバーはアクセル一定で車速60km/hを狙って走行したとします。このとき、ドライバーは一定車速を狙っていても、道路の形状や微妙な操作のズレ、スピードセンサの計測誤差などにより実際の車速は61km/hだったり59km/hだったりと、60km/hを跨ぐ場合があります。すると、ドライバーとしては一定の操作をしているはずなのに何度もアップシフトとダウンシフトを繰り返しながら走ることになってしまいます。普通に考えて気持ち悪いですよね。なので、一般にアップ線とダウン線の間にはマージンを開けて設定します。

このように設定することを、業界では「ヒス(ヒステリシスの意)をもたせる」といいます。

どうやって変速しているのか

ここでは、ATの変速がどう仕組みで行われているのか、変速ってどういう物理現象なのかを説明します。

変速に使われる部品と変速の機構

まず、ATの変速にどんな部品が使われるかをざっくり説明します。

クラッチ、ブレーキ
四輪ATミッション内クラッチカットモデル

引用元:http://www.wit-labo.com/results/atcut.html

どちらも摩擦力によって2つの部品をつなげる役割を持った部品です。摩擦材が付着した紙と金属製のプレートが交互に組み合わさっており、それらが油圧によってピストンに押し付けられることで2つの部品が繋がります。油圧が抜けるとバネの力によって元の位置に押し戻され、繋がっていた部品が離れます。

クラッチは回転している2つの部品を繋げる役割を持っているのに対し、ブレーキはATのケースと回転している部品を繋ぐことで回転を止める役割を持っています。

ギヤトレーン

ATの駆動力伝達に使われている歯車の一連をギヤトレーンと呼びます。ATは沢山の歯車の組み合わせで構成されており、組み合わせ方によってATのギヤ比が変わってきます。

多くのATにおいて、ギヤトレーンはプラネタリギヤ(遊星歯車)の組み合わせとなります。プラネタリギヤはサンギヤ、ピニオンギヤ、キャリヤ、リングギヤから構成される歯車の組み合わせで、サンギヤの周りをピニオンが回る様子が太陽と衛星に似ていることからこう呼ばれます。

Planetary Gear

引用元:http://www.advancae.com/software_ansol_sample.html

ATがクラッチやブレーキを繋ぐことでサンギヤ、リングギヤ、キャリヤのいずれかの回転数を変化させ、変速を行っています。

この辺の変速機構については、下記のHPにも動画で載っているので参考になると思います。(というか動画で見たほうが絶対に理解しやすい)

https://www.aisin-aw.co.jp/products/drivetrain/transmission/index.html
油圧制御装置

ATは油圧の力でクラッチやブレーキを制御するので、そのための部品をまとめて油圧制御装置と呼ぶことにします。代表的な部品を説明すると、下記のような感じ。

  • オイルポンプ 制御の元となる油圧を発生させる(人間で言う心臓みたいなもの)
  • ECU クラッチやブレーキに対する司令電流をリニアソレノイドに送る(脳みたいなもの)
  • リニアソレノイド 指示通りに油圧を調整しクラッチやブレーキに送る(神経みたいなもの)
  • バルブボディ AT各部品へ油圧を送り、循環させる(血管みたいなもの)
  • ATF 油圧の媒体そのもの(血液みたいなもの)

無理やり人間の体で例えてみましたが、

まあ、大方合っているのではないでしょうか…笑

変速制御と車両の挙動

実際に変速制御でクラッチの油圧をどう操作していて、その結果どういう挙動になるのかというところについて書いていこうと思います。

アップシフト(アクセルON)

アクセルを踏んで加速しているときの1-2アップシフトについて考えてみます。

変速はクラッチを掴み替えてギヤ比を変える操作なので、変速判断がされると、掴む側、離す側それぞれのクラッチを同時に操作して掴み替えを行います。

クラッチの掴み替えを行うことで1速の駆動力から2速の駆動力に変化させることができるのですが、掴み替えに要する時間やタイミングなどを精密に計算して実施しないとスムーズに駆動力を変化させることができず、変速ショックを引き起こしてしまいます。一般に、ショックをなるべく感じさせないようにしたい場合は掴みかえの時間を長く、ショックよりも変速時間を重視する場合(スポーツカーなど)は短く設定される傾向にあります。

また、クラッチの掴み替えを行ったあと、エンジンとともにトランスミッションの入力回転が変化します。このとき、エンジンの慣性によってイナーシャトルクというトルクが発生し駆動力に影響を与えるため、エンジントルクを落として相殺する(トルクダウンをかける)ということも行っています。

ダウンシフト(アクセルON)

次に、アクセルを踏み込んで2-1ダウンシフトする場合を見てみます。

アクセルONでのダウンシフトの場合、離す側のクラッチの油圧を抜くとクラッチが滑り始め、エンジンは自分の発生するトルクで回転数を上げていきます。この間、ATの内部状態はMTでいう半クラッチのような状態なので、駆動力は抜けた状態になります。

そして、エンジンが1速の回転数まで到達したときに掴む側のクラッチ油圧を上げてしっかり締結させ、変速を完了させます。クラッチを掴むタイミングが遅いと、エンジンは1速の回転を超えて吹け上がってしまい、そこからクラッチで回転を引き下げるような動きになってしまうので変速ショックが発生します。

アップシフト(アクセルOFF)

アクセルOFF時のアップシフトの場合、エンジンのトルクはマイナス側に出ているので、離す側のクラッチ油圧を下げるとエンジンの負トルクにより回転が落ちてきます。(アクセルONダウンシフトと変化する方向が逆なだけで、似たような状況になっています)

従って、エンジン回転が2速の回転まで落ちてきたところでクラッチを掴めば変速完了しますが、掴めないと回転が垂れ下がってしまい、変速ショックの要因となります。

ダウンシフト(アクセルOFF)

こちらはアクセルONアップシフトと似たような状況で、クラッチの掴みかえによって2速から1速の駆動力(アクセルOFF でエンジンが負トルクを出しているので、1速の方が負方向に駆動力が大きい=減速度が大きい)に切り替えます。そしてここでも、回転変化時にイナーシャトルクが発生するため、エンジントルクを上昇させることでこれを低減します。

ちなみに、スポーツカーなどで実施されるブリッピングはどちらかというとアクセルONでのダウンシフトに発想が近く、回転変化の分だけ自動的にエンジンを吹かし、目標の回転数に到達したらクラッチを掴むという制御になっています。

まとめ

今回は、ATの役割と変速制御について書きました。

とりあえず、現在主に使われている機能や部品について書いたので、より詳しい内容が知りたいという人は下記の書籍を読むことをお勧めします…が、冒頭にも述べたとおり、業界人でもない限り初見だとなかなかに辛いものがあるので、それなりの覚悟をもって読みましょう。。

 

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