自動車と制御工学

クルマ
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突然ですが、制御工学って単語、聞いたことありますか?

私は学生の時に制御工学を専攻していました。

名前だけみるとあんまり馴染みはないかもしれませんが、自動車はもちろん航空機とかロボットとか、けっこう色んなところに活用されている分野です。

応用範囲が広く個人的に好きな分野なんですが、馴染みのない人からすると

難しそうだし、何をする分野なのかよく分からんわ

とか言われることが多いのでちょっと残念。。

ということで、本日は布教のために

  • 制御工学ではどういうことをするのか
  • 自動車業界での制御工学の活用例

を書いていこうと思います。とはいっても、数式をズラズラと並べるのはあんまり好きじゃないので概要程度に。

制御工学ではどんなことをするのか

制御対象のとらえ方

制御工学では、制御理論という考え方に基づいていろんなものを制御します。(文字にすると「頭痛が痛い」みたいでなんだかくどいですね…笑)

字面は堅苦しく見えますが、要するに制御理論というのは

制御したい対象を狙い通りに動かすための理論

ということです。

まず、制御理論での基本的な概念として、制御対象を下記のように捉えます。

つまり、制御対象に何らかの入力を加えると何らかの出力がでてくる、というふうに考えます。

自動車の運転で例えると、入力はハンドル操作やアクセル操作、出力は駆動力やタイヤの舵角、というような感じです。

どういう制御をするか?

次に、対象をどういう風に動かしたいか?ということを考えます。

ものによって色々あるとは思うんですが、ざっくりみると、下記のような狙いを達成する入力(制御入力)を求める問題として考えていることが多いです。

  • 出力を目標値に追従させる
  • 指標を最小化(最大化)する

1つ目を自動車で例えると、クルーズコントロールが良い例かと思います。

あれは車速(出力)を目標値(ユーザーが指定した値)に追従させるように自動でアクセルやブレーキを操作する制御です。

2つ目に書いた指標というのは、例えば制御にかかる入力のエネルギーだとか、目標値に追従するまでの時間だとか、目的によって様々に考えられます。

目標値を達成させる入力は1つでないことが多い(ゆっくり時間をかけて追従させるもの、素早く追従させるものなどいろいろあります)ので、指標を定めることで、得られる制御入力をより具体的なものに絞ることができます。

制御するための考え方

制御の狙いとしてよく扱われる問題は先述の通りですが、狙いを達成するための方法は1つではありません。実際、”〇〇制御” と名のつくものは多々ありますが、大体は下記の2つに大別されます。

  • フィードフォワード制御
  • フィードバック制御

なにが違うのかというと、制御入力を作るのに、出力の情報を用いるかどうかということ。図で表すと下記のような感じです。

フィードフォワード制御のコントローラは、受け取った入力(目標値)をもとに、”制御対象はこう動くだろうから、こういう入力を入れれば狙いの出力になるだろう” という計算を内部で行って制御入力を決めます。つまり制御対象の特性を決め打ちで制御するので、コントローラ内で想定している特性がピッタリ合えば素早く目標達成できますが、想定している特性と現実の特性がずれていたりすると、制御対象の動きが狙いと合わなくなってしまう懸念があります。

一方、フィードバック制御では、制御対象からの出力を見ながらそれを入力に反映するので、現在の出力が目標値からずれていれば、それを修正する入力を作ることができます。これなら、想定していた特性と多少ずれていても狙いを達成できるという利点があります。フィードバックという概念はけっこう幅広く使われているので、直感的にも比較的理解しやすいのではないでしょうか。

自動車業界における制御工学

わりと抽象的な話をずらずら書いてきたので、よりイメージしやすくするために、自動車を例にとって制御工学がどんな形で使われているか紹介します。

クルーズコントロール

上で述べたとおり、ユーザーが指定した車速に車速を追従させるようにコントロールする機能です。

ABS

今どきの自動車には必ずついているABSですが、これもフィードバック制御の一種です。タイヤの回転数情報からスリップ率を判定し、これが一定値を超えるとABSを作動させて、スリップ率を一定値以下になるまでポンピングブレーキをし続けます。

トラクションコントロール(TRC)

考え方はABSと似たようなものですが、こちらはタイヤの空転を抑えるためにエンジンの駆動力を制御する機能です。

まとめ

制御工学について、概論的な感じで

  • 基本となる考え方
  • 自動車への応用例

に関してつらつら書いてみました。

かなりフワッとしたことしか書いてないので、もうちょっとちゃんと勉強したいという方のために、参考になりそうな書籍を紹介しておきます。

また、制御理論と一口に言っても色々な分野がありますが、具体的にどういう分野があるのかというのを下記の記事にまとめましたので、興味のある方は是非読んでみてください。

知識ゼロから始める、制御工学の基礎
以前から何度か制御工学について記事は書いていますが、正直、過去記事にはふわっとしたことしか書いていません。 なので、これから制御工学についてちょっと勉強しようかな、と思っている人が読んでも「こんな使いみちがあるのか」ぐらいで、具合的な理解に...

参考文献

制御工学の考え方(ブルーバックス)

この本では、制御工学の歴史や基本的な考え方について、わかりやすく書かれています。入門書として読んでおくと、他の本を読んだときに意味がわかりやすいかも。

フィードバック制御入門(コロナ社)

フィードフォワード、フィードバック制御器の設計方法について学べる入門書。大学の講義でも使ってましたが、これが一番わかりやすいテキストかなと思います。

自動車の運動と制御

自動車にはたらく力はどんな物があるか、それを考慮すると車両の数理モデルはどう表現できて、そこからどんなことがわかるかが書いてあります。自動車のモデルの導出過程も書いてあるので、学生のときはかなり参考にしました。また、実際にMATLABやCarsimを使ったシミュレーションの例なんかも載っているので、けっこう実践的です。

自動車の運動性能向上技術

タイヤの力学的特性や、ステアリング系、サスペンション、駆動力制御など、自動車の運動性能に関する部分の制御について多角的に触れています。自動車の数理モデルに関してもさらっと触れています。それぞれの部位に対して、どんな制御が使われているのか知るのにいい本だと思います。

自動車業界MBDエンジニアのためのsimulink入門

MATLABおよびsimulinkを持っている人であれば、この本で自動車の簡易的な制御モデルを学ぶことができます。

クルーズコントロールのモデル例なんかも扱っているので、興味のある方は是非読んでみて欲しいです。

 

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