意外と知らないAT小話。クリープ現象はなぜ起こるのか?

クルマ
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クリープ現象とは?

MT車の場合、発進のためには、いわゆる半クラッチをペダル操作で作らなければならないのに対し、AT車はブレーキを離しただけで動き出します。

この現象をクリープ現象といい、自動車教習の学科でも聞いたことはあると思いますが、なんでこんな現象が起こるのか?というのを知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。私も自動車業界で働くまで普通に知りませんでした。笑

半クラッチ状態をを自動で作ってくれてるからでしょ?

という回答は、半分正解で半分不正解。DCTやAMTの場合は、構造がMTに近いので正解なのですが、ATやCVTの場合には「半クラッチ」という表現は正確ではありません。

説明するカギはトルクコンバータとATFにある

トルクコンバータ、といって「あぁ、アレね」と思える人は業界人でもない限り殆どいないでしょう。何それ、って感じですよね。

トルクコンバータ(トルコン)は、トランスミッションの入り口部分(つまりエンジンの隣)についている部品で、エンジントルクを増幅させることができます。

トルコンの構造は、エンジン側に連動して回る羽と、トランスミッション側の回転に連動する羽とが向かい合っている感じになっています。

扇風機が2つ向かい合って並んでいる図を想像してもらうと分かりやすいかもしれません。

参照元URL: https://upty.jp/rudimentary_knowledge/torque_converter

この場合、片方の扇風機が回れば、その風でもう片方の扇風機が回されますよね。同じようなことが、トルコン内でも起きているわけです。

トルコンの場合、双方の羽の間にあるのは空気ではなくATFという液体です。エンジン側の羽が回されると、それによってATFが回転と共に流れ、その力でトランスミッション側の羽が水車のように回されます。そして、この回転がタイヤまで伝わることで車がゆっくり走り出すわけです。

また、ブレーキを踏んでいる時はトランスミッション側の回転はロックされていますが、エンジン側の羽根とトランスミッション側の羽の間には液体が流れているだけなので、エンジン側の回転までロックされてしまうことはありません(扇風機の例を思い出すとわかりやすいですよね)。これがAT車がエンストしない理由です。

ちなみに、流体を介して動力を伝えることから、トルコンの仕組みは流体クラッチとも呼ばれます。

余談1: トルコンとロックアップクラッチ

せっかくトルコンについてお話ししたので、ロックアップクラッチについても書いておこうと思います。

トルコンを使うことで、クリープ現象によって滑らかに発進できる反面、液体を介して力を伝えるので伝達効率が悪いというデメリットがあります。なので、トルコンの力で走り続けることは燃費には良くありません。

発進のときだけトルコンを使って、走り出したらエンジンとトランスミッションを直結にできれば燃費も向上できそうですね。これを実現しているのがロックアップクラッチです。

ロックアップクラッチはトルコン内にあるクラッチで、発進や停止直前などの低速時にはエンストしないよう放しておき、走り出したら掴んでエンジンとトランスミッションを直結させるので、トルコンの利用を最小限にし効率よくクルマを走らせることができます

余談2: ATFの役割

ATFは Automatic Transmission Fluid の略で、AT内を巡っている赤い液体です。主な役割は

  • トルコンでのトルク増幅
  • クラッチの制御
  • クラッチの潤滑、冷却

であり、重要な役割を色々と担っています。エンジンオイルほど頻繁に交換する必要はありませんが、徐々に劣化はしていきます。

したがって定期的に交換するなどメンテナンスが必要になりますが、交換時期やどのATFを使うかは正規ディーラーに相談することをお勧めします

理由としては、製品ごとに保証している走行距離や、想定しているATFの特性が違うから。

極端な話、粘度が低めのATFを前提に設計されているATに粘度が高いものを入れてしまうと、制御が上手くできずに変速ショックが悪化したり、最悪の場合故障してしまう可能性もあるので注意しましょう。

まとめ

余談もありましたが、今回はクリープ現象はなぜ起こるのか、その原理について書きました。

EVのようにモーターで駆動する場合はエンストの懸念がなくトルコンは必要ないため、近年ではトルコンレスのATを搭載したものも出てきています。

もしかすると、教習車からクリープ現象が消える日も近いのかもしれませんね。

(逆に不便かもしれませんが)

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