前回に引き続き自動車工学のお勉強です。
前回はタイヤにはたらく力について書きましたが、今回はそれを踏まえた上で車両全体の挙動をモデル化したいと思います。
車両のモデル化
座標系の設定
前回タイヤでやったのと同じように、まず下記のように座標軸を設定します。また、車両の移動速度をV、スリップ角をβ、回転角速度をrとして図示しています。
図にもある通り、車両の外と内にそれぞれ座標系を設定しています。外側の座標系(X-Y)は車両の絶対的な位置と向きを考慮するのに用い、内側の座標系(x-y)は車両のスリップ角や回転角速度を表すのに用います。
厳密に言えば車は立体なので高さ方向も考えるべきですが、運動性能を考える場合には2次元平面上のものとして扱われることが多いです。
関係式の導出
自動車の挙動を数式で表現していきます。運動している車両の動きを記述するので、最終目標は車両の運動方程式を立てることです。ただそのためには色々と段階を踏んで考える必要があるので、その辺踏まえて段階的に書いていきます。
流れとしては下記のような感じです。
- 回転しながら進む車両の速度、加速度に関する関係式を導出する
- それぞれのタイヤ摩擦力に関する式を導出する
- 上記を踏まえて、車両の運動方程式を立てる
速度ベクトル、加速度ベクトルを用いた表現
上で図示したように、車両が速度Vで移動し、回転角速度rで回転している場合を考えます。
ここで、速度Vを車両上の座標軸 x-y 方向に分解して考えるため、x軸方向の単位ベクトルをi, y軸方向の単位ベクトルをjとすると下図のようになります。
車両が角速度 r で回転しているとき、微小時間Δtの間に車両はrΔtだけ回転するので、このときの i, j の変化量をΔi、Δjとおくと
という関係式が得られます。したがって、Δt→0とすると
となり、i,j の時間微分が分かります。一方で、車両の速度ベクトルをR, x軸方向、y軸方向の速度成分をそれぞれu, vとおくと、Rの時間微分(加速度ベクトル)は
と表せるので、結局
となります。
スリップ角を用いて表現
ここまでの式だといまいちピンと来ないので、車両のスリップ角を用いた表現に直します。
車両のスリップ角=車両の前後方向(x軸方向)と進行方向(速度Vで進んでいる方向)のなす角度
なので、スリップ角 β と速度V を用いると
と表すことができます。したがって、加速度ベクトルRの式は下記のように直すことができます。
それぞれのタイヤにはたらく摩擦力
ここまでは、車両の速度や加速度について触れたのみで、前回書いたようなタイヤの摩擦力だとか車両にはたらく力については考えていません。なので、これらを考慮して車両の運動方程式を立てていきます。
まず、それぞれのタイヤのスリップ角を βij (i∈[f,r], j∈[l,r]), 前輪の実舵角をδとおいておきます。図示するとこんな感じ。
また、走行中のタイヤに働く横力(詳細は前回記事参照)をCijとおくと、それぞれのタイヤについて進行方向と垂直方向にはたらく力の成分は
これを図示すると下記のようになります。
運動方程式の導出
さて、いよいよ車両の運動方程式を立てるわけですが、車両の運動は並進と回転の2種類あります。また、2次元平面での運動を考えているので、運動方程式としては3つ立式する必要があります。
並進の運動方程式
x軸、y軸方向それぞれについて運動方程式を立てます。
車両の質量を m, x 軸方向に働く力を Fx, y 軸方向に働く力を Fy とすると, それぞれの方向に対する運動方程式は下記のようになります。
また、Fx、Fy は Yij をx軸、y軸方向の成分で表されるから、結局、下記の式を得ます。
回転の運動方程式
車体の慣性モーメントをI、重心点から前後の車軸までの距離をそれぞれ lf, lrとおくと、重心点まわりの回転の運動方程式は下記のようになります。
各タイヤのスリップ角の表現
車両重心点周りの速度成分を考慮すると、角タイヤのスリップ角は下記のように表すことができます。
※上の式は前輪、下の式は後輪についての式
制御工学への応用(状態方程式)
制御工学では、状態方程式という形で車両モデルを表現します。
状態変数としてスリップ角β、回転角速度r、速度V、舵角 δ をとると、状態方程式は
状態方程式では入力uを定める必要があるので、舵角δの変化率を入力としています。
まとめ
ざっとですが、車両運動の数理モデル導出を行いました。
これを用いた解析とかはまた別の機会に書こうと思います。
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