前回の記事では、
安定化の方法(状態フィードバック)
について触れました。

今回は、色々な本にもよく出てくるラプラス変換と伝達関数について書いていきます。
ラプラス変換とは?
とりあえず定義をみてみよう
ラプラス変換の定義を書くと
$$\mathcal{L}[x](s):=\int_0^\infty x(t)e^{-st}dt$$
となります。

…この定義を見て「なるほど、そういうことね!」と思える人は少ないと思います。
というか、そう思えるならこの記事を読む必要はないです。笑
ラプラス変換の意味とうれしさ
ラプラス変換の物理的な意味は、時間の関数を周波数の関数に変換していることになります。

いや、周波数に直したところで何が嬉しいの?
余計ややこしくなるだけでは?
と思うかもしれませんが、実は、ラプラス変換を使うと微分方程式が簡単な式に直せるようになります。
例えば、\(a\)を定数とし、微分方程式
$$\dot{x}+ax=0$$
を考えてみましょう。この両辺をラプラス変換すると
$$(s+a)X(s)-x(0)=0$$
という式になります。ここで\(x(0)\)は初期値、\(X(s)\)は\(x(t)\)をラプラス変換したものです。

なんと微分が消え、ただの掛け算になりました。
上の式を\(X(s)\)について解くと
$$X(s)=\frac{x(0)}{s+a}$$
となります。あとはこれをラプラス逆変換することで
$$x(t)=x(0)e^{-at}$$
を得ます。(ラプラス逆変換の定義はwikiでも見てください。笑)
一般に、基本的な関数に対してはラプラス変換表という早見表があります。
これを用いることで微分方程式がある程度解きやすくなる(つまりシステムの挙動が把握しやすくなる)ため、制御工学では欠かせないツールになります。
ちなみに、Maximaでもラプラス変換はlaplace、逆変換はiltというコマンドを使うことで計算できます。実際、上の微分方程式をMaximaでラプラス変換を使って解いてみると下記のようになります。
ラプラス変換についてのまとめ
- ラプラス変換は、微分方程式を解く為の便利なツールである
- ラプラス変換表を用いることで、サッと計算ができる
伝達関数とは?
伝達関数という概念
さて、次に伝達関数という概念について説明します。
例として、\(u\)を入力、\(y\)を出力とし、下記のような微分方程式で表されるシステムを考えてみましょう。
$$\ddot{y}+a_1\dot{y}+a_2y=bu$$
これをラプラス変換すると
$$(s^2+a_1s+a_2)Y(s)-(s+a_1)y(0)-\dot{y}(0)=bU(s)$$
を得ます。ここで、\(x(0)=\dot{x}(0)=0\)の場合(すなわち零状態応答を考える)、\(Y\)について解くと
$$Y(s)=\frac{b}{s^2+a_1s+a_2}U(s)$$
が得られます。ここで、
$$T(s):=\frac{Y(s)}{U(s)}=\frac{b}{s^2+a_1s+a_2}$$
を、入力\(u\)から出力\(y\)への伝達関数といいます。
伝達関数は、文字通り、入力から出力へどう伝わるのかという性質を表す要素です。
零状態応答に関する要素なので、制御対象の定常的な特性を調べるのに役立ちます。
伝達関数とシステムの安定性
入出力安定という考え方
伝達関数は零状態応答に関する要素ということを上で述べましたが、実は、伝達関数を調べることで、そのシステムの零状態応答が安定かどうかを知ることができます。
ただ、安定と言っても、零状態応答の場合は任意の入力を加えるので必ずしも0に収束するとは限りません。
なので、以下の入出力安定という考え方で安定かどうか判別します。
システムに有界な入力を加えたときに有界な出力が得られる場合、入出力安定であるという。
伝達関数の極と零点
例として、2階線型微分方程式
$$\ddot{x}+a_1\dot{x}+a_2x=bu$$
の伝達関数について考えてみましょう。

初期値応答(入力を0としたときの応答)が安定である条件は、\(a_1>0,a_2>0\)でした。
微分方程式の両辺をラプラス変換して\(X\)について解くと
$$X(s)=\frac{b}{s^2+a_1s+a_2}U(s)$$
であるから、伝達関数として
$$T(s)=\frac{b}{s^2+a_1s+a_2}$$
を得ます。

伝達関数の分母が0になる点のことを極といい、分子が0になる点のことを零点といいます。
極がわかれば安定性がわかる
実は、入出力安定かどうかは、伝達関数の極を調べれば分かります。
上で述べた伝達関数の極は、2次方程式の解の公式より
$$s=\frac{-a_1\pm\sqrt{a_1^2-4a_2}}{2}$$
となります。ここで\(a_1^2-4a_2\)の値によって極が実数になるか複素数になるかが分かれますが、入出力安定のための必要十分条件は
伝達関数の極(の実部)がすべてs<0の範囲にあること
ということが知られています。
伝達関数についてのまとめ
- システムの挙動のうち、零状態応答に関する特性を表す
- 分母が0になる点を極、分子が0になる点を零点という
- 極の実部が負であれば、そのシステムは入出力安定
まとめ
今回は、制御工学(とくに古典制御)を語る上で欠かせないラプラス変換と伝達関数について述べました。
このまま安定判別法とかボード線図とかバリバリの古典制御に突っ走ってもいいのですが、次回は趣向を変えて、現代制御で使われる状態空間表現について書こうと思います。
参考図書
何度か過去記事でも紹介しましたが、この辺の内容をより詳しく理解するには下記の本がおすすめです。
コメント