無料で始める制御工学講座③ 不安定系の安定化

制御工学
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前回は、

  • 制御対象の動きは微分方程式で表されること
  • 代表的な微分方程式の解の動き
  • 安定・不安定とは

という内容について書きました。

無料で始める制御工学講座② 制御対象の表現と安定性
前回は単に便利ツールの紹介しただけで終わってしまったので、今回から本格的に講義内容を書いていきます。 基本的には高校数学・高校物理くらいの知識でわかるように書いていくつもりです。 制御対象をどう表現するか? 自動車のモデル導出の記事なんかに...

今回は、不安定なシステムを安定化する方法について書いていきます。

安定化の意味と意義

安定化するというのは、文字通り、

”不安定なシステムに対し適切な制御入力を加えて安定にすること” です。

制御対象が安定の場合、初期値応答や零状態応答の結果からもわかるように(前回記事参照)、放っておいてもある一定の状態に収束するので、ある意味、制御されていると言えるでしょう。

しかし、不安定なシステムの場合、明らかにそのままの状態では制御できているとはいえず、放っておくとシステムそのものが壊れてしまうこともあり得ます。

例えば、共振や自励振動のように、小さな揺れが入力として入ってきたときにそれを増大させてしまうようなシステムは不安定系の典型例です。

下記動画のように、横風による自励振動 (どんどん振動を大きくしてしまう現象) で崩壊してしまった橋の例もあります。

したがって、不安定なシステムの安定化というのは、制御工学の中でも基本的な問題であるとともに、かなり大切なものになります。

安定化の方法

さて、安定化するということがなぜ大事なのかがわかったところで、

実際にシステムを安定化する入力を求めていきましょう。

状態フィードバックによる安定化

直感的なイメージとして、システムの内部状態がわかっていれば安定化することができそうです。

例えば、エアコンで室温を制御することを考えてみましょう。

エアコンは冷風、温風を出して室温を上げたり下げたりできるので、現在の室温がわかっていれば狙いの室温に制御することができます。

(狙いの温度より高ければ冷風、低ければ温風を出すというのを繰り返せば、狙いの温度に近づくはず)

この考え方を微分方程式に当てはめると、制御入力を状態\(x\)に応じて設計するということになります。すなわち、制御入力\(u\)を$$u=-kx$$という形で設計します。

このような入力\(u\)の作り方を状態フィードバックといい、係数\(k\)をフィードバックゲインといいます。

言葉だけで説明してもいまいちピンとこないかもしれないので、数値例として

$$\dot{x}-x+1=u$$ で表されるシステムの安定化を考えてみましょう。

初期状態を\(x=0\)としたときの初期値応答は$$x(t) = 1-e^t$$となり、下記グラフのように状態\(x\)が時間\(t\)とともに発散してしまいます。

よって、このシステムは明らかに不安定です。

ここで、右辺の入力\(u\)を状態フィードバックの形 $$u=-2x$$と与えてみましょう。

先ほどと同じように、初期値を\(x=0\)として解くと$$x(t)=-\frac{1-e^{-3t}}{3}$$となります。これは時間\(t\)とともに状態\(x\)が収束する挙動となるため、安定になります。

安定性の条件

さて、状態フィードバックすれば安定化できると書きましたが、だからといって

どんなゲインでも安定化できるわけではありません

ここでは、システムを安定化できる条件について考えてみます。

1階線型微分方程式

前回の記事で書きましたが、微分方程式$$\dot{x}+ax=bu$$の初期値応答(右辺を0としたときの解)が安定である条件は、\(a>0\)であることでした。

ここで、入力\(u\)をゲイン\(k\)を用いて状態フィードバック\(u=-kx\)の形で考えると、この微分方程式は$$\dot{x}+(a+bk)x=0$$と書くことができます。

したがって、この微分方程式の解が安定になる条件(すなわち、システムを安定化するためのフィードバックゲインが満たすべき条件)は$$a+bk>0$$ということになります。

2階線型微分方程式

前回記事より、微分方程式$$\ddot{x}+a\dot{x}+bx=u$$の初期値応答が安定である条件は、\(a>0,b>0\)であることでした。

ここで、今まで同様に入力\(u\)を状態フィードバックで与えることを考えて$$u=-k_1\dot{x}-k_2x$$としてみましょう。このとき、微分方程式は$$\ddot{x}+(a+k_1)\dot{x}+(b+k_2)x=0$$と書き換えられます。

したがって、初期値応答の安定性の条件と照らし合わせて考えると、状態フィードバックによる安定化のための条件は$$(a+k_1)>0, (b+k_2)>0$$ということになります。


したがって、制御対象の動きが1階線型微分方程式や2階線型微分方程式で表されるときは、ここで述べたような条件を満たすようにフィードバックゲイン\(k\)を選んでやれば安定化できます。

条件さえ満たせばどんなkでも安定化できるので、安定化する入力を求めよ、という問題だけ考えるのであれば答えは1つではありません。

まとめ

今回は、システムを安定化する方法と、そのための条件について書きました。

次回は、参考書などによく出てくるラプラス変換伝達関数について書いていきます。

参考図書

微分方程式についてより詳しく理解するなら下記の本がかなりおすすめです。

微分方程式ってどうしてもとっつきにくいい印象があるんですが、この本では考え方や解き方のパターンが初心者にもわかりやすく書いてあります。私も大学1〜2回生時代にかなり助けられました。

制御工学に限らず、微分方程式は色んな分野で用いられるので、一度きちんと勉強しておいて損はないと思います。

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